行政財産から普通財産にする手続

1.「行政財産」から「普通財産」にする手続について、地方自治法はどのように定めているか。

地方自治法には「行政財産」「普通財産」という2つの大きなカテゴリーがあることはみなさんご存知かと思います。この二種類の財産の間で、いままで行政財産だったものを普通財産にする手続は何でしょうか。これを用途廃止といいます。平たくいうと、行政財産(使い道のあるもの)が普通財産(使い道のないもの)に切り替わるというイメージです。
ただし、地方自治法には、「行政財産を普通財産にする」という手続としての用途廃止について、全く、特に具体的な定めは記載されていません。
なお、行政財産である公用又は公共用に供していたものについてその用途を廃止して普通財産とすることは、財産管理権者の裁量である(「自治体財務の実務と理論」改訂版p.166)と考えられています。

2.「用途廃止」とはどのような概念か。

地方自治法238条第3項には、「公有財産は、これを行政財産と普通財産とに分類する。」というシンプルな条文があります。全ては、これが出発点になります。
つまり、地方自治法は、行政財産(=用途がある財産)と普通財産(=用途がない財産)という2つの大きな分類(カテゴリ分け)を用いており、用途が廃止になった場合、分類を「行政財産」から「普通財産」に変えなければならないと、それが当たり前のようにその管理をしなければならないというタテツケになっているのです。
そして、公用または公共用に使っている、又は将来使おうということになっている財産のことを「行政財産」と呼ぶため、用途を「なくした」状態となった財産は、速やかに、適正に用途廃止を行う必要があります。このことについては、地方自治法上、適切な管理を行うべき義務というような特別の条文をおいていませんが、当然の要請ということになります(なお、平成5年7月19日浦和地裁判決が「教育行政上の観点から行われる管理行為なのであるから、住民訴訟の対象となる財務会計上の行為ということはできない」と示しており、その後も、これに反する裁判例はなく、用途廃止は、住民訴訟の対象になるような行為ではないとされています)。

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3.横浜市公有財産規則の例

ここでは、横浜市公有財産規則の例を見てみましょう。

(公有財産の取得等の協議)
第7条 局長は、次に掲げる場合は、財政局長に協議しなければならない。ただし、軽易な事項に係るものについては、この限りでない。
(1) 公有財産を取得しようとする場合
(2) 公有財産の所管換を受けようとする場合
(3) 普通財産を行政財産にしようとする場合
(4) 行政財産の種類(公用財産及び公共用財産の別をいう。以下同じ。)又は用途を変更しようとする場合
(5) 土地又は建物について所属替をしようとする場合
(6) 行政財産の用途を廃止しようとする場合
(7) 行政財産を貸し付け、又は行政財産である土地に地上権若しくは地役権を設定しようとする場合
(8) 行政財産である土地又は建物の使用許可又は使用承認をしようとする場合
(9) 普通財産である土地又は建物を貸し付け、又は処分しようとする場合
(10) その他公有財産について重大な変動をきたす行為をしようとする場合

土地を新たに取得するのではなく、すでに取得した土地について、それが「普通財産から行政財産にしようとする」(3号)というのは基本的には(各局の)局長の判断で行うとされた上で、それにつき財政局長と協議することになっています。逆に、行政財産の場合、「用途を廃止しようとする」(6号)という段階で、基本的には(各局の)局長の判断で行うとされた上で、それにつき財政局長と協議することになっています。
行政財産である場合には、当該事務事業を行う局(部)が所管し、その後、用途がなくなって普通財産となった場合には、財政を担当する局(部)が所管するという事務の取扱にしている例が多いようです。

4.監査などでの指摘の例から。

では、用途廃止手続を迅速に行っておかなければならないという理由はどこにあるのでしょうか。その根本には、地方自治法が、公有財産を、行政財産普通財産との二分論を採用し、行政財産は「貸し付け、交換し、売り払い、譲与し、出資の目的とし、若しくは信託し、又はこれに私権を設定することができない。」という厳格なルールを採用し、普通財産にはその制約を課していないというところがポイントにあります。

すなわち、不動産を公用又は公共用に供しているときは行政財産として厳格な扱い(第三者に貸し付けたりすることも極力行わないようにし)になり、逆に公用又は公共用に供しなくなった場合には、売り払うなり第三者に貸すなりして有効活用を図ることが望ましいということになります。用途(使い道)がない土地は、それを前提にした管理が必要なのです。事実状態として公用又は公共用に供されなくなっているにもかかわらず、行政財産のままとなった状態(実際は用途がないのに、あたかも公用又は公共用の財産であるようなカテゴリ分けがされ続けること)は良くない…というふうになります。

この観点は、全国のあちこちの監査で指摘されています。たとえば、岩手県の包括外部監査(平成23年度)では、県の所有地を、市に「市道用地」として貸付を行っている場合、「この点につき、市町村道に認定された道路は道路法に基づき道路管理者である当該市町村が管理するものであるから、上記土地の利用を通した県による直接的な行政サービスの提供は実施できない。よって、市町村道の認定に伴い、当該道路敷地は県による直接的な行政サービスの提供手段でなくなったものと認められ、用途廃止(公有財産規則(昭和39年岩手県規則第40号)第23条)せず行政財産としているのは不適切である。」と示されています。当初は、なんらかの用途のため「県」の行政財産であったとしても、臨時的/一時的ではなく、当分の間、市道がつくられるために市に貸付を行うということであれば、「県としての行政財産」の体裁をなすことはないのであって、適切な管理を求めるものです。

また、広島市の包括外部監査(平成22年度)では、「昭和41年に旧A町が焼却灰捨場用地として取得し、その後旧A町との合併に伴い、広島市が引継いだものであるが、一度も行政用途に使用されていない。また、今後の利用計画もないにもかかわらず、長期間にわたり行政財産のままとなっている。行政財産の用途廃止を行い、普通財産とする必要がある。」という事例が記載されています。50年前後の昔に特定の用途(焼却灰の捨場)のために取得した土地ということですので、現在は、行政財産にされているということですが、もはや全く利用する計画はないということのようです。広島市側としては「この土地は、里道のみに接した囲繞地状の山林で、処分はできない状況であり、登記未了地番もあることから、登記整理を行った後、将来隣地の開発が開始されれば区域編入について検討する。」ということだったようですが、そのような登記未了という事情に関係なく、用途廃止を行うべきということになります。

5.監査などでの指摘の例から。

北九州市の監査において今後とも行政用途に供する予定がないと思われるにもかかわらず、財産分類を変更せずに、行政財産のまま長期に渡って所管している」との事例が指摘され、それは「地方自治法第 238 条の規定に基づく財産分類がなされていないと認められる」と指摘されているものがあります。
また、東京の江東区の監査において「平成 ** 年度に適正に行政財産の用途廃止が行われて、翌年度から普通財産として無償貸付けが行われていたにもかかわらず、財産台帳の更新を失念していたため、平成 **年度まで財産台帳に行政財産として登載されたままになっていた。」といった点が指摘されているものがあります。

6.「普通財産」の管財課での一元管理

普通財産は「管財課」のような財産管理を担当する部課が一元的な管理を行うケースが多いようです

三重県の包括外部監査において、外部監査人は次のような指摘をしています。

→三重県公有財産規則第 21 条第 2 項においては、「行政財産の用途廃止を行い、普通財産となった場合でも管財課に引き継がない場合」として下記の3類型が上げられています(当時)。
① 交換に供するため用途を廃止するもの
② 使用に堪えない建物、建物以外の工作物及び船舶で取壊しの目的をもって用途を廃止するもの
③ 公有財産の管理及び処分を管財課長においてすることが不適当と認められるもの

これに対して、外部監査人は、「管財課への移管がなされず、各課等所管のままとなっている普通財産については、利活用計画の対象物件となっている場合を除き、各所管課等と管財課との情報共有が図られず、管財課は当該普通財産についての十分な情報を持っていないため、処分等の方針策定が困難となり、結果的に普通財産が長期にわたり各課等の所管のまま滞留している場合がある。そこで、未利用・低利用の普通財産を出来る限り各課等にとどまらせず、早期に長期的・全庁的な視点に立った利活用を検討する意思決定機関の議論の俎上に乗せる仕組みを構築することが必要であると考えられる。」と述べています。

7.適切な財産管理のあり方について

地方公共団体が不要になった財産を整理していくには「所管課任せ」にしないことが不可欠です。各部は、決して、不動産に関するプロではなく、たとえば境界が不明な土地や、紛争性のある土地を適切に解決できる能力など持っていません・・・。しばしば、財産が眠ったままになりがちです。そのためには、県庁/市役所全体で統括的に資産を管理する部門が、積極的に動くことが不可欠と思われます。