審査請求と議会での諮問(地方自治法)

1.地方自治体において、審査請求に対する裁決を行う前に、議会への諮問を行うこととされているもの

不服申立て(審査請求)があったときに、裁決を行う前に議会への諮問を要するとされているものは、下記の通りです。

  • 地方自治法第206条 (給与その他の給付に関する処分)‥〔典型例〕退職手当不支給など
  • 地方自治法第229条(分担金、使用料、加入金又は手数料の徴収に関する処分)‥〔典型例〕下水量使用料の賦課など
  • 地方自治法第231条(督促など)
  • 地方自治法第238条の7(行政財産を使用する権利に関する処分)‥〔典型例〕目的外使用許可申請の不許可など
  • 地方自治法第243条の2(職員の賠償命令)
  • 地方自治法第244条の4(公の施設を利用する権利に関する処分)

2.審査請求の議会への諮問のうち、特に多く見られるもの

このうち、特に、全国の都道府県・市町村において例が多いのが、職員を懲戒処分(免職)等にした場合における退職手当不支給に関する審査請求につき、裁決を行なう前に、諮問を行なうものです(ただし、こうした事件は不服申立前置主義ではありませんので、不服のある職員は、審査請求ではなく、いきなり訴訟を提起する例も多いと思われます。

3.議会での諮問を行う場合、行政不服審査会での調査審議手続は不要

改正された行政不服審査法では、通常の審査請求の手続の場合は「審理員による審理手続」→「行政不服審査会」と進むことになりますが、議会への諮問が必要な場合は「審理員による審理手続」→「議会での諮問」ということになります(つまり行政不服審査会の出番はありません。)。
行政不服審査会での調査審議手続は、改正法により設けられたもので相応の手続保障が規定されています。これに対し、議会での諮問手続を行う場合、議会への諮問のみが経由されることになります。両者の手続はかなり性質が異なるものです。第三者による「議」を経て裁決がなされるという点に共通点を見いだし、どちらかが経由されればよいというように考えられた立法です。

4.手続保証の面の差

行政不服審査会に対する諮問の場合、当事者(審査請求人)は、主張書面等を提出することが可能であり、また口頭で意見を陳述することが可能です。これに対し、議会に対する諮問手続では、そういった手続保障の条文が何もありません(審査請求人が、法的主張を述べたいといっても、市議会/県議会の議場で意見を陳述するなどといったことはまず行われません。)。これは、地方自治法上、古くからある特別なルールを存置したまま(手をつけずに)、行政不服審査法の改正がなされたことによるものです。そのため、上記6種類の事例で議会に対する諮問が行われることが、権利保障が手厚いのか手厚くないのかよくわからないことになっているように思えます(私見)。

(関連)
地方分権一括法による 審査請求の「議会への諮問」手続の改正
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退職手当不支給処分と行政不服審査会
行政不服審査法と教育委員会の関係