.地方自治法における「無償貸付」の議決の例

1.地方自治法における「無償貸付」の議決の例 – 浜松市 –

無償貸付については(条例で類型化して定められているものを除いては)議決が必要です。ここで、廃校となった市立中学校の跡地利用にあたって無償貸付が行われた例を紹介いたします。

浜松市では、「旧×××中学校」(浜松市中心部からかなり北に距離がある山間部の中学校のようです)を、「浜松×販売株式会社」に無償貸付を行っています。具体的には、「旧×××中学校」についての土地・建物(校舎・体育館・ポンプ機械室・浄化槽機械室・体育館便所)を当該会社に貸し付ける格好となっています。

浜松市議会の議案書では、
1 所在地
2 財産の概要
3 無償貸付の相手方(会社名・会社の所在地・代表取締役)
4 無償貸付の期間
が掲げられています。

提案理由としましては、


平成17年4月1日に廃校となり、中山間地域の廃校廃園の利活用に関する方針(資産経営推進方針)に基づき施設の利活用の検討を行っていた旧×××中学校の校舎及び体育館等について、貸付けを希望する者から申し出があり、事業内容等について地域への説明を行ったところ、了承が得られました。
中山間地域の活性化、施設の有効活用及び市の財政負担の軽減が図られることから、事業実施予定者に無償貸付することについて、地方自治法(昭和22年法律第67号)第96条第1項第6号の規定に基づき、議会の議決を求めるものです。


上記で登場する中山間地域の廃校・廃園の利活用に関する方針には、学校は地域コミュニティの拠点として住民に親しまれてきたという経緯があることや、学校設立にあたっては地域の協力が大きかったこと、立地も地域の中心になることを踏まえ、廃校となった後の貸付や処分を考えるとされております。その上で施設の利活用にあたては、「公共施設の転用にふさわしい目的であるものが望ましい。」とされています。
本件で相手方となっているのは民間会社であり、どのような利用がされているのか不明ですが、山間部の場合、民間会社が創業する工場などであっても地域から原材料を調達し、地域の人材を雇用するといった点で公益性があるのであれば、議決を経て、無償貸付を行うことも十分に政策の方向性としてありうるのではないかと思われます。

2.地方自治法における「無償貸付」の議決の例 – 市川市 –

病院の民営化にあたって無償貸付が行われた例を紹介いたします。市川市では、「浦安市川市民病院」という形式で、浦安市・市川市の両市の一部事務組合の形で、公設の病院が経営されていましたが、それが民営化されることになりました(詳細な経緯については、同市公式ウェブサイトの「浦安市川市民病院の民営化について」を参照)。
これにつき、一部事務組合の解散について「協議」の議決がなされる(地方自治法第288条、第290条)とともに、公募により選定された民間の法人により病院が運営されることになりました。
これにつき、無償貸付について、議会の議決がなされています。

議案書は、、
1.無償貸付をする財産
2.無償貸付の相手方
3.無償貸付の目的
4.無償貸付の条件
という四項目でまとめられています。

なお、同市議会でのやりとりを見ていると、「無償貸付期間が20年と設定された理由」が議論になっています。具体的には、安定かつ継続した地域医療の提供という政策目的がある一方で、さまざまな社会情勢の変化(筆者の推測ですが、たとえば地域医療におけるこの病院の役割というのもかわっていくこともありますでしょう‥)もあると思われます。同市議会においては、「一たん病院が提案している医療機能の検証を行うこと」という理由により、上記の20年という期間が定められたとのことです。

なお、無償貸付を行うにあたっては、相手方を完全に信用するのではない、さまざまなリスクを想定することが必要と思われます。具体的には、公有財産を無償で貸し付けるという重みを考えると、当初の政策目的をきっちりと実現するために、本件のような事例で言えば、最低限、小児科と産婦人科につき・・・・・・・・・といった機能を維持することといったルールにつき、具体化させた上で、無償貸付を行うことが必要かと思われます。