1.地方自治法180条の「専決」
地方自治法では「180条の専決」に関しては、下記の通り、定められています(180条)。
第百八十条 普通地方公共団体の議会の権限に属する軽易な事項で、その議決により特に指定したものは、普通地方公共団体の長において、これを専決処分にすることができる。
○2 前項の規定により専決処分をしたときは、普通地方公共団体の長は、これを議会に報告しなければならない。
この180条の専決の制度は、地方自治法96条などで地方自治体の議決事項が列挙されている事項のうち、それを形式どおりにあてはめて、全件を議決を必要とすることが行政事務にとって煩瑣であることから「軽易な事項」であり市長限りで簡易迅速に処理することの方が望ましい類型を議会で一括して「指定」の議決を行い、“こういった内容であれば個別の議決は不要だよ”と指定するものです。
本来であれば議会の議決が必要なものについて、地方公共団体の長だけで決定するものを専決と言います。そのうち地方自治法179条と180条の2種類の定めがあることから、特にこちらを(180条の専決)と呼んだりします。
こうした専決処分をしたときは、その後に、議会への報告が必要になります。
この専決を”任意代理的専決処分”という言い方をすることもあるようです(宇賀「地方自治法概説」3版p.270)。
2.議会の会期中でも、180条の専決は行いうる
180条の専決は、議会の会期中でも行うことが可能です。その理由を説明します。市長/知事が、議会の議決を経ることが省略できるという制度で、言わば、フットワークを軽くすることにより、行政事務を執行しうるようにしたものと言えます。そうすると、議会の会期中であるかどうかに関係なく、一年中機動的な対応ができるということになります。
この場合、当該会期中の議会で「報告」を行うのか、委員会の日程や議案書印刷の関係で次の議会に「報告」を行うのかという点が問題になります。ただし、特に法律的に正解があるものではなく、各自治体内の運用によって定まるべきものと言えます。
3.横浜市における市長専決の例
横浜市の例を見てみましょう。横浜市の場合、「市長専決処分事項指定の件」(昭和28年3月2日 市会議決)という名称となって、以下のようになっています。
(1) 訴訟物の価額が300,000円以下の訴えの提起(第4号及び第5号に規定するものを除く。)に関すること。
(2) 民事訴訟法に基づく訴訟上の和解(第5号に規定するものを除く。)に関すること。
(3) 申立価額200,000円以下の民事調停(第5号に規定するものを除く。)に関すること。
(4) 訴訟物の価額が5,000,000円以下の地方自治法第240条第1項に規定する債権の徴収に係る訴えの提起(次号に規定するものを除く。)に関すること。
(5) 市営住宅又は改良住宅の使用料の滞納があった場合の使用料の支払又は住宅の明渡しに係る訴えの提起(支払を請求する使用料の額が5,000,000円以下のものに限る。)、和解及び民事調停に関すること。
(6) 次の区分による金額以下で、法律上本市の義務に属する損害賠償の額を定めること。
ア 交通事故によるもの
自動車損害賠償保障法施行令(昭和30年政令第286号)第2条第1項第1号イに定める保険金額
イ 交通事故以外によるもの
3,000,000円
(7) 町区域等の設定、廃止若しくは変更、住居表示の実施又は土地区画整理事業若しくは土地改良事業の実施に伴い、公の施設及び事務所事業所の位置の表示が変更された場合に必要となる条例の改正に関すること。
とされています。
このうち
(1)は金額が低廉な民事訴訟全般
(2)は訴訟上の和解に関すること (ただし、東京高判平成13年8月27日に注意。)
(3)は金額が低廉な民事調停全般
(4)は債権回収に関する訴訟(この場合は、金額が500万円までであれば可能)。
(5)は市営住宅などに関する法的措置
(6)は国家賠償法ないし民法にもとづく損害賠償義務のうち、金額が低廉なもの
(7)は住居表示などに関すること
といった形になっております。この横浜市の例では、定例的な業務の範疇で機動的・迅速な対処を行うことを主な趣旨としているといえましょう。
4.名古屋市における市長専決の例
次もう一つの例である名古屋市を見てみましょう。名古屋市では、「法律又は政令により、特に緊急の必要がある場合は、財源を市税、使用料若しくは手数料の増率又は新設に求めない金200万円未満の歳入歳出予算の追加又は更正を内容とする補正予算及び金20万円未満の債務負担行為を内容とする補正予算を定めること。」というやや見慣れない規定があります。そのほか、請負契約の変更、権利の放棄、損害賠償、訴えの提起などで構成されています(議会の権限に属する事項中市長の専決処分事項-名古屋市-)。
全国的に見れば、このような市長/町村長の専決事項の指定を有していないところもあり、たとえば、訴訟(支払督促を除く。)であれば全件が議決が必要という取扱いになっているところもあると思われます。
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