1.住民訴訟における「訴訟告知」
住民訴訟は、住民が原告となり、市長などの執行機関が被告となるものです。しかし、被告となった側(知事・市長など)は、地方自治法第242条の2第7項に基づき、訴訟告知を行うことが義務付けられています。地方自治法の規定は下記のとおりです。
-地方自治法-
7 第一項第四号の規定による訴訟が提起された場合には、当該職員又は当該行為若しくは怠る事実の相手方に対して、当該普通地方公共団体の執行機関又は職員は、遅滞なく、その訴訟の告知をしなければならない。
2.住民訴訟における「訴訟告知」の具体的なイメージ
住民訴訟は、上記のとおり、住民が原告となって、市長などの執行機関が被告となります。しかし、この2者(原告と被告)だけで訴訟が進んでいった場合、責任の有無が問題となっている直接当事者は何も関与しないまま、訴訟が終わったことになりかねません。当該紛争には、直接の当事者という人がいるはずであり、その者に「いまから、訴訟がはじまりました」ということを知らせておく必要があります。訴訟告知は、そのためのものになります。
イメージは以下のとおりです。
具体的に、Y市の住民が執行機関であるY市長を被告として住民訴訟を提起した場合には、
・ 執行機関である被告Y市長から、<Y市長である山田川雄=個人>に訴訟告知をしたり、
・ 執行機関である被告Y市長から、<Y市の元市長である岡田川介=個人>に訴訟告知をしたり
・ 執行機関である被告Y市長から、<Y市の市議会議員である谷田川男=個人>に訴訟告知をしたり、
といったことが考えられます。
3.住民訴訟における「訴訟告知」の具体的なイメージ
地方自治法の文言上は、提起された場合に「遅滞なく」訴訟告知を行うことになっています。これは、訴訟が開始されたあとは、さまざまな攻撃防御(主張・立証)が進んでいきます。訴訟が終盤になってから訴訟告知をするのでは意味が乏しいため、早いうちに訴訟告知を行うことで適切な時期から訴訟に参加する権利を保障しようとする考え方によるものです。
4.住民訴訟において「訴訟告知」の具体的な進み方
訴訟告知を受けた、上記の「個人」は、その住民訴訟に補助参加人として訴訟に参加することが出来ます。補助参加人は、独立して、裁判所に主張したいことを書面(準備書面)を提出し、陳述することができます。証拠(書証)も提出できます。
訴訟に”参加”するかどうかはケースバイケースです。まったく参加しないままに、終わっている事例も、多く見受けられます。特に現職市長の責任が問題となっているときは、被告としての自治体が適切な攻撃防御雨を行うため、わざわざ訴訟参加する意義が乏しく、補助参加人として訴訟に参加しない例が見受けられます。
5.住民訴訟において「訴訟告知」の具体的な進み方 – 元市長の責任問題 –
次に、元市長の責任が問題となった場合を考えて見ましょう。上記の例で、元市長に訴訟告知がなされたとき、被告山川市が、訴訟において、自分の言い分も含めて訴訟で適切に戦ってくれていると思えば、敢えて当該元市長は補助参加しないことが考えられます。この場合,個人としての元市長としては、訴訟告知を受けても,何もせず,ただただ判決がなされるまで待つだけ(おいておく)ことになります。
他方で、現職vs元職の見解対立型(元職時代の支出が問題になっているケース)のように、元職市長(個人)として、被告山川市が訴訟において自分の言い分を適切に訴訟で現してくれているか疑問が残ると感じている場合、訴訟告知を受けたタイミングで補助参加することが選択肢として考えられます。その場合、弁護士等に依頼して、自分の言いたいことについて主張を書き、証拠を提出することができます。ただし、すでに市長の職を辞めていますので、弁護士費用も自腹になりますし、また適切な資料を保有していないため、なかなか適切な反論を書くのが難しかったりします。
6.住民訴訟において「訴訟告知」の送達先 – 現役の市長や職員の場合 –
自宅住所を必ずしも明らかにしたくない場合には、送達(裁判所からの郵送)先を、市役所にする方法があります。そうすると、裁判所からの郵便物(子訴訟告知書)はそこで受け取ることになります。