1.住民訴訟で勝訴した原告側の弁護費用の負担
地方自治法上では、住民訴訟で原告側に生じた弁護士報酬の負担について、下記のとおり定められています。住民訴訟においては、原告が勝つ訴訟も負ける訴訟もありますが、原告が勝った場合、原告側の弁護士費用を地方自治体側が負担するというものです。
(住民訴訟)
第二百四十二条の二(中略)
12 第一項の規定による訴訟を提起した者が勝訴(一部勝訴を含む。)した場合において、弁護士又は弁護士法人に報酬を支払うべきときは、当該普通地方公共団体に対し、その報酬額の範囲内で相当と認められる額の支払を請求することができる。
地方自治法ではこれ以上具体的な規定はいないです。条文からは「報酬の範囲内であること」が要件であり、さらに「相当と認められる額」であることが必要となっています。
このように法律では極めて簡潔な文言しか定められておりません。一義的に、”では何円を支払えばいいの?”という金額が定まるような制度になっていないため、時としてトラブルが生じやすいという問題があります。
2.最高裁判例(平成21年4月23日)
最高裁は、法242条の2第7項にいう「相当と認められる額」とは,同条1項4号の規定による住民訴訟(以下「旧4号住民訴訟」という。)において住民から訴訟委任を受けた弁護士が当該訴訟のために行った活動の対価として必要かつ十分な程度として社会通念上適正妥当と認められる額をいい,その具体的な額は,当該訴訟における事案の難易,弁護士が要した労力の程度及び時間,認容された額,判決の結果普通地方公共団体が回収した額,住民訴訟の性格その他諸般の事情を総合的に勘案して定められるべきものである(最判平成21年4月23日)としています。
3.最高裁判例(平成21年4月23日)が示している規範の考慮要素
最高裁が示している言葉は抽象的です。そのため、考慮要素を、分析的に考えて見るのが、重要となります。
・「当該訴訟における事案の難易」を考慮しうるとされていることから、事案が明らかに複雑かつ高度な場合には割増的計算も認められると解されます。具体的には立証の困難性といったことも挙げられるでしょう。
・「弁護士が要した労力の程度及び時間」を考慮しうるとされていることから、たとえば訴訟が長引いたであるとか、あるいは多数人の証人尋問を行う必要があった等という点も考慮しうると解されます。
・また「認容された額、判決の結果普通地方公共団体が回収した額」を考慮しうるとされていることから、1億円であるとか、10億円であるといった巨額の事件の場合にはそれに見合う計算を行いうると解されます。なお、この場合、判決で認容された額については、元本だけでなく遅延損害金も含まれると解していいと思われます。なお、住民訴訟の結果、支払義務を負うことになる相手方に資力が乏しく分割払いとなる場合、報酬をどのように計算するかは悩ましいところです。