1.地方自治法で定められた概算払いのルール
地方自治法では、概算払いに関しては、下記の通り、定められています(232条の5)。
-地方自治法-
第二百三十二条の五 普通地方公共団体の支出は、債権者のためでなければ、これをすることができない。
2 普通地方公共団体の支出は、政令の定めるところにより、資金前渡、概算払、前金払、繰替払、隔地払又は口座振替の方法によつてこれをすることができる。
これを受けて地方自治法施行令では、下記のとおり定められています。
-地方自治法施行令-
(概算払)
第百六十二条 次の各号に掲げる経費については、概算払をすることができる。
一 旅費
二 官公署に対して支払う経費
三 補助金、負担金及び交付金
四 社会保険診療報酬支払基金又は国民健康保険団体連合会に対し支払う診療報酬
五 訴訟に要する経費
六 前各号に掲げるもののほか、経費の性質上概算をもつて支払をしなければ事務の取扱いに支障を及ぼすような経費で普通地方公共団体の規則で定めるもの
2.地方自治法で定められた概算払いを使えるのはどのようなときか
このように概算払については、(1)地方自治法施行令162条の1号から5号までで列挙されているものか、または、(2)地方自治法施行令162条6号の要件にあてはまる形で各地方公共団体の「規則」で定められたもの、のいずれかである必要があります。各地方公共団体は「規則」で定めることができますが、自由になんでも定めていいものではありません。上記の地方自治法施行例の書きぶりのとおり、概算払でなければ「支障」を及ぼすような経費かどうかが問題になります。究極的には地方自治法施行令162条6号の趣旨に沿うものであるかどうかは、1号から5号との似ているかどうかで検討することになると思います。
3.横浜市の例
たとえば、横浜市の「横浜市予算、決算及び金銭会計規則」では
第130条 次の各号に掲げる経費については、概算払をすることができる。
(1) 旅費
(2) 官公署に対して支払う経費
(3) 補助金、負担金及び交付金
(4) 保険料
(5) 社会保険診療報酬支払基金又は国民健康保険団体連合会に対して支払う診療報酬
(6) 社会福祉施設(本市の施設に属するものを除く。)への支払に要する経費
(7) 訴訟に要する経費
(8) 本市に損害賠償責任があることが明らかである事件に係る損害賠償金の内払いに要する経費
(9) 委託費のうち概算払を必要とする経費
(10) 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律第29条第1項の規定による介護給付費及び訓練等給付費、同法第34条第1項の規定による特定障害者特別給付費、同法第51条の14第1項の規定による地域相談支援給付費、同法第51条の17第1項の規定による計画相談支援給付費、同法第70条第1項の規定による療養介護医療費並びに同法第71条第1項の規定による基準該当療養介護医療費並びに横浜市地域生活支援サービス費及び高額地域生活支援サービス費の支給等に関する規則(平成18年9月横浜市規則第129号)第3条の規定による地域生活支援サービス費及び高額地域生活支援サービス費その他会計管理者が認めた経費
(11) 児童福祉法(昭和22年法律第164号)第21条の5の3第1項の規定による障害児通所給付費、同法第21条の5の28第1項の規定による肢体不自由児通所医療費、同法第24条の2第1項の規定による障害児入所給付費、同法第24条の7第1項の規定による特定入所障害児食費等給付費、同法第24条の20第1項の規定による障害児入所医療費及び同法第24条の26第1項の規定による障害児相談支援給付費その他会計管理者が認めた経費
という形となっています。
4.概算払いを用いる場合の留意点
概算払いについては、先にお金をアバウトな形で支出を行うことになりますが、そうした支出を行うためには「最初」と「最後」という2つの段階で厳格な事務が行われることが不可欠になります。
「最初」とは、概算払を行う段階です。「概算払」の形を用いる必要性がある場合であっても、金額はきっちり検討しておく必要があります(合理的に計算された金額である必要があります)。当たり前の話しですが“どんぶり勘定”で多めに渡しておくことが許容されるはずがありません。
また、支出の段階では、適切な審査が行われる必要があります。使い切っているというだけで、精算を終えていいものでは、もちろんありません。
5.概算払いについて外部監査の指摘の例
青森県平成27年3月包括外部監査報告書は、以下のような指摘がなされています。
平成25年度分委託費の支出方法について、県は、同25年4月に委託額3,712千円の全額を概算払したが、同26年4月25日付の事業完了報告書の提出を受けて、26年5月16日に事業実績を超える額2,791千円の返還を受けた。この返還額は、実に契約額の75%の金額に相当する。県の概算払の根拠として、「実施にあたり、禁煙補助剤等の購入等の経費を必要とすること」が起案書に書かれているが、イベント事業の開催時期は8月から11月にかけて行われていること、禁煙支援事業の薬剤購入は、一般の調剤薬局が自己資金で行い、後日、県薬剤師会が調剤薬局に振り込む取引になっていることから、必ずしも年度当初の全額概算払いが必要不可欠だとは思われない。委託先の運転資金の補填と見なされないよう、事業の進捗状況を見極めながら、中間払いで概算払した方が、同じ2回の事務執行であったとしても、県費の節約につながると考える。
これは、平成25年当時、「県」が「一般社団法人青森県薬剤師会」に「生活習慣サポート事業」の業務委託を行い、その委託費を支出する際に概算払を用いていたことに対する指摘です。具体的には、県下において、ママパパが禁煙補助剤を買うにあたって最初の2週間を(事業の実施者である青森県薬剤師会を通じ)県が補助するといった感じだったようです。