1.地方自治法における「委任」について
地方自治法では「委任」に関しては、下記の通り、定められています(153条)。
第百五十三条 普通地方公共団体の長は、その権限に属する事務の一部をその補助機関である職員に委任し、又はこれに臨時に代理させることができる。
○2 普通地方公共団体の長は、その権限に属する事務の一部をその管理に属する行政庁に委任することができる。
2.地方自治法における「委任」と民法の「委任」とのは別物であることについて
地方自治法における「委任」は、行政権的な意味での権限が動く(=権限を移す)ものです。普通地方公共団体の長の“権限”であったものが、委任によって、委任がなされた先の“権限”に移っていってしまいます。民法上の委任は、第三者に何かを委ねたとしても、本人の権限がなくなることはありません。したがって、民法上の委任とは全く異なるもの(100%別物!)であることを意識する必要があります。
3.地方自治法における「委任」の具体例
ここまで説明してきましたが「委任」というものが、どういうことか仕組みがなかなか理解しづらい方も多いのではないでしょうか。そのため、分かりやすい一例を挙げてみます。
市長の権限を区長に委任するということが考えられます。このとき、例えば「区長委任規則」が作成され、各個別の権限(法令でもともとは市長の権限となっているもの)が、市長から区長に動く(=移る)という形になります。
このほか一般的な委任の例としては、「社会福祉事務所長」の他、政令指定都市の「区長」、県の「振興局」のようなところへの委任がなされることがあります。これ以外の場合に、市長の権限を農業委員会に委任している例がも存在します。
なお、委任にはこのような規則作成が不可欠ではありません(法律上特に方式に関する定めはありません。)
4.生活保護法の権限を例に、地方自治法における「委任」を考えてみる
下記は生活保護法の例です。法律を読むと、保護の開始に関する決定の権限は「実施機関」(=市長)にあると定めております。したがって、当該地方公共団体内において委任その他の手当てをしていない場合は、生活保護の「権限」は市長にあることになります。
-生活保護法-申請による保護の開始及び変更)
第二十四条 保護の開始を申請する者は、厚生労働省令で定めるところにより、次に掲げる事項を記載した申請書を保護の実施機関に提出しなければならない。(略)
3 保護の実施機関は、保護の開始の申請があつたときは、保護の要否、種類、程度及び方法を決定し、申請者に対して書面をもつて、これを通知しなければならない。
これについては、明文の定めがあります。生活保護法第19条第3項が「前三項の規定により保護を行うべき者(以下「保護の実施機関」という。)は、保護の決定及び実施に関する事務の全部又は一部を、その管理に属する行政庁に限り、委任することができる。」としているのです。そのため、各市においては、市長から「福祉保健センター長」のような行政庁に委任がなされてます。委任がなされると、これの権限が移ることにないます。すなわち「市長」→委任→「福祉事務所長」という形で、もともと市長にあった権限を、全て、福祉事務所長が持つことになります。具体的には「横浜市福祉保健センター長委任規則」のような規則のなかに書き込まれる形で、委任される権限がリストアップされることになります。
このときの不服申立ては、
・法定受託事務ではない場合、行政不服審査法の考え方により、審査請求を最上級行政庁である市長に行うことになります。
・法定受託事務の場合、一般的ルールは、市長に審査請求を行い、さらに知事に再審査請求を行うことになります(地方自治法255条の2)。ところが生活保護法(個別法の定め)により、いきなり知事に審査請求を行うとされています(生活保護法第64条)。
5.行政不服審査法における取扱
一般的な考え方としては、市における社会福祉事務所長の行った処分の場合、直近上級行政庁(最上級行政庁)は市長になります。
生活保護法においては、市長から委任を受けた社会福祉事務所長が行った保護の開始等の処分については、審査請求の審査庁は知事が行うとされています。