1.監査委員が総計予算主義の原則に抵触するとした事例はどのようなものがあるか-1
今回は、監査委員が、総計予算主義の原則に抵触すると指摘した例を見てみましょう。
(事例1)
文化ホールで催される市の自主事業は、毎年度、文化協会に委託して実施されているが、平成25年度以降は事業の活性化をめざして、支出総額からチケット売上額を差し引いた財源不足額を支出する方法へと契約の仕方が変更されている。
この結果、市民は予算書や決算書では全体事業費のうちの一部の支出額しか見えず、また収入は計上されなくなっている。地方自治法第210条は「一会計年度における一切の収入及び支出は、すべてこれを歳入歳出予算に編入しなければならない」と規定し、総計予算主義について定めている。これは市民や議会に対して、予算書や決算書を通して事業の実施に必要な収入と支出の総額を明らかにするとともに、併せて予算執行についての市の責任の明確化を求める規定である。市が平成25年度から変更した契約方法は総計予算主義に反する疑いがあり、さらなる改善を検討して頂きたい。
(太字化は、引用者)
これは、文化ホールで、市が行う「市の自主事業」を団体に委託していた事例です。団体に対する委託費という歳出額と、チケット売上という歳入額があると観念すると、総計予算主義に反するということになるというのです。たしかに「市のイベント」を団体に委託して行わせる際に、「チケットの売上」が市の歳入であると考えるのが正当だとすると、歳出歳入のそれぞれを別々に予算に編入されることが正当で、それがされていないことはよくないということになりそうです。
ただし、これは、委託事業における「チケットの売上」が市の事業ではない場合にまであてはまる話ではないですね。やり方によっては必ず総計予算主義に反するのかといわれると微妙なところではないでしょうか。
2.監査委員が総計予算主義の原則に抵触するとした事例はどのようなものがあるか-2
(事例2)
「広報 K ・区民広報紙」の印刷・広告掲載・配布拠点への配送業務等について委託契約を締結しているが,広告料については代理店手数料を差し引いた金額をK市に納入する契約となっており,歳入・歳出の経理処理を行うことなく,事務処理されていた。
一会計年度における一切の収入及び支出は,総計予算主義の原則に従って,すべてこれを歳入歳出予算に編入しなければならず,法令に即して,適切な事務処理を行うべきである。
(太字化は、引用者)
監査委員は、このように指摘しています。
すなわち、ある業者に対して、
・A(歳出)広報誌を印刷してくれたら、その分の印刷代を払います。
・B(歳出)広報誌を配布拠点へ配送してくれたら、その分の配送代を払います。
・C(歳出)各種広告をあつめてくれたら、その分の代理店手数料を支払います。
・D(歳入)集まってきた「広告費」については、市に納入してください。
という構図になっていたことについて、監査委員は、CD間の差引き処理が行われている結果、すべてを歳入歳出予算に計上しなければならないという原則に反しますよね・・・という指摘をしているわけです。この場合、歳入・歳出予算に両方を別々に編入すべきものということになります。