地方自治法における債権の「免除」

1.地方自治法における債務の免除はどういうルールが適用されるか

地方自治法では、免除について、下記の通り、定められています(240条3項)。

-地方自治法-
第二百四十条
3  普通地方公共団体の長は、債権について、政令の定めるところにより、その徴収停止、履行期限の延長又は当該債権に係る債務の免除をすることができる。

これを受けて地方自治法施行令では、下記のとおり定められています。

-地方自治法施行令-
(免除)
第百七十一条の七  普通地方公共団体の長は、前条の規定により債務者が無資力又はこれに近い状態にあるため履行延期の特約又は処分をした債権について、当初の履行期限(当初の履行期限後に履行延期の特約又は処分をした場合は、最初に履行延期の特約又は処分をした日)から十年を経過した後において、なお、債務者が無資力又はこれに近い状態にあり、かつ、弁済することができる見込みがないと認められるときは、当該債権及びこれに係る損害賠償金等を免除することができる。
2  前項の規定は、前条第一項第五号に掲げる理由により履行延期の特約をした貸付金に係る債権で、同号に規定する第三者が無資力又はこれに近い状態にあることに基づいて当該履行延期の特約をしたものについて準用する。この場合における免除については、債務者が当該第三者に対する貸付金について免除することを条件としなければならない。
3  前二項の免除をする場合については、普通地方公共団体の議会の議決は、これを要しない。

2.地方自治法における「免除」は「権利の放棄」とは別の概念

上記の条文を前提とすると、地方自治法上の「免除」を行う場合は、必ず、施行令の要件に満たしていることが必要ということが分かります。そして、要件を満たしていれば、議会の議決は不要になります。この点で、議会の議決が必要な「権利の放棄」とは意味が異なる、別の行為ということになります。

3.地方自治法における「免除」の要件

地方自治法における「免除」は、債権をチャラにする行為であるから、非常に厳格な要件が定められています。上記の政令でのとおりですが、

(1) まず「無資力又はこれに近い状態」という要件で履行延期の特約/履行延期の処分を行うことが必要。
(2) 次に、当初の履行期限から10年が経過していることが必要
(もしくは、最初に履行延期の特約/履行延期の処分から10年)
(3) その10年経過した状態の際に、なお「無資力又はこれに近い状態」であり、なおかつ「弁済することができる見込みがない」ことが必要

ということになっています。

3.地方自治法における債務の免除が使われる場面があるのか

こうしたことから、地方公共団体の通常の事務において、この規定を用いた免除が行われることは非常に稀なのではないでしょうか。
債権管理条例においても、この条項と全く同じ趣旨の規定を入れているところがあるかと思います。その場合も、その規定を用いた免除が行われることは非常に稀なものと思われます。