目的外使用許可と裁量(判例は裁量権の逸脱濫用を指摘することがある)

1.地方自治体は目的外使用許可の申請があったときに、許可するかしないかの裁量を有するか

市民などから行政財産を使用したいという「申請」があったとき、行政としては、当然、許可するかしないかの判断をしなければなりません。行政側は、さまざまな要素を考慮して、許可を出すか出さないかを決めることになります。これについて、行政側は「目的外使用許可」の判断においては、一定の裁量を持っていると考えられます。ただ、そうした判断について、裁量権の逸脱又は濫用として、事後的に裁判所で否定されることがありえます。

2.目的外使用許可を拒否する判断についての裁量権についての判断枠組み(判例)

近時の判例では、目的外使用許可に関する行政の裁量について、次のような言及がなされています。

-平成20年11月14日 新潟地裁判決-水路使用許可請求事件(裁判所ウェブサイト)
行政財産は,原則としてこれに私権を設定することなどが禁止され(地方自治法238条の4第21項),その用途又は目的を妨げない限度においてその使用を許可することができると定められている(同第7項)のであって,このような法の規定の仕方からすると,行政財産の目的外使用を許可するか否かは,原則として,行政財産の管理者の裁量に委ねられているというべきである。そして,このことは,本件条例5条の市長の許可についてもいえることであって,同条例の文言とも矛盾するものではない。(中略)公共用財産としての用途・目的,目的外使用の目的・態様等を考慮し,地域の実情に即した合理的な裁量判断により使用許可をしないこともできるということができる。もっとも,市長の裁量権の行使にあたり,裁量権の逸脱又は濫用があった場合には,許可しない処分は違法として取り消されるべきものであることはいうまでもない。

このように目的外使用許可に関しても、全くの自由裁量というわけではなく、裁判所の目から見て「裁量権の逸脱・濫用」があると認められる場合においては、取消されうることになります。具体的に、当該新潟地裁の判決は「重視すべきでない事項を重視し,他方,当然考慮すべき事項を十分考慮しておらず,その結果,社会通念に照らし著しく妥当性を欠いたもの」との指摘を行って、結論として、目的外使用許可の不許可が違法であるとの結論を導いています。
具体的には、➀仮に当該目的外使用許可を認めたとして、行政財産の用途または目的を妨げることがあるかどうか、②使用許可を求める者にとって、仮に認められなかった場合の、生活や経営への打撃、③その他一連の経緯
などを考えることになると思います。

3.目的外使用許可の申請拒否処分に対する「義務付け訴訟」

上記で引用した裁判例(平成20年11月14日 新潟地裁判決-水路使用許可請求事件-)では、判決主文は二つあります。

 1. Y市長が原告に対し平成19年5月11日付けでした別紙1記載の公共用財産使用許可申請を不許可とする処分を取り消す。
2. Y市長は,原告に対し,別紙1記載の公共用財産使用許可申請について,これを許可せよ。
3. .訴訟費用は被告の負担とする。

このように、行政事件訴訟法でいう「申請義務付けの訴え」が認容されたケースになります。目的外使用許可の判断は裁量性があるという判断枠組みのなかで、裁判所は「本件申請に対し許可処分をしないことは被告市長の裁量権の範囲を超え又はその濫用となると認められる」という判断をされる可能性があると、許可の義務付けの判決がでることがあることに、自治体側は十分に留意すべきでしょう。

4.最高裁判例との関係

上記の新潟地裁の事例は、最高裁平成18年2月7日(公立学校施設使用不許可事件・裁判所ウェブサイト)でも用いられた、裁量判断の枠組みが用いられております。最高裁平成18年2月7日判決は、「上記の諸点その他の前記事実関係等を考慮すると,本件中学校及びその周辺の学校や地域に混乱を招き,児童生徒に教育上悪影響を与え,学校教育に支障を来すことが予想されるとの理由で行われた本件不許可処分は,重視すべきでない考慮要素を重視するなど,他方,当然考慮すべき事項を十分考慮しておらず,その結果,社会通念に照らし著しく妥当性を欠いたものということができる。そうすると,原審の採る立証責任論等は是認することができないものの,本件不許可処分が裁量権を逸脱したものであるとした原審の判断は,結論において是認することができる。」とするものです。
目的外使用許可のなかには自動販売機の設置場所提供のための目的外使用許可のためのように極めて営利行為を行うための単なるスペースを貸し与えるという色彩の強いものがあります。他方で、最高裁の公立学校事件は、教育研究集会が「自主的で自律的な研修を奨励する教育公務員特例法19条,20条の趣旨にかなうもの」という指摘を明確に行っており、あるいはまた新潟地裁事件は、その許可が認められるか否かが「農場の経営」に関わっており、原告の経営を左右するという性質を帯びるものでした。このように裁判所は、「行政財産だから、どんな施設の場合であっても、役所が自由に判断したらいいよ」というスタンスを取っていないことに特に留意が必要です。表現の自由・営業の自由・生活権が関係するもの(特に従業員を雇用して長年営業を行うようなケース)には留意し、特に不許可とする場合に、裁量の幅が広いか狭いかには、個別の事情の吟味が必要になるでしょう(ただし、裁判所は、決して、既得権を重視しているわけでもないのですが‥)。