地方自治体における「総計予算主義」

1.地方自治法における「総計予算主義」とは何か

地方自治法上、総計予算主義に関しては、下記の通り、定められています(210条)。

-地方自治法-第二百十条  一会計年度における一切の収入及び支出は、すべてこれを歳入歳出予算に編入しなければならない。

 すなわち会計年度(4月1日~翌年3月31日)において、現金の収納、現金の支出の一切につき、予算に編入することにしなければならないことを定めているものです。
いっけんすると当たり前に思えますが・・・。
ここで地方自治法による財政制度は、現金主義を採用しており、お金が入ってくること、お金が出ていくことをその年に記載することが求められていることに留意が必要です。

2.地方自治体では相殺的処理をしてはいけないことについて

なお、収入と支出の両方があるときには、収入は収入として(予算に予定額を)計上し、支出は支出として(予算に予定額を)計上する必要があります。

何らかの往復的なお金のやりとりがあるケースにおいて、収入・支出を予算計上を行わず勝手に“相殺的な処理”をして、結果、お金の動きが見えなくなる処理をすることは禁止されています。ここでものすごい勘違いが生まれているところですが、地方公共団体が、民法上の相殺権を行使することが、この総計予算主義により禁止されてるわけではありません。ときどき、そこを誤解されて、総計予算主義の原則があるから、役所は「相殺」が出来ないのだということを主張される方がおられますが誤解です。

たとえば、民間業者に物の販売や役務の提供を委託したケースにおいて、仮にその対価の収納の事務を同業者に委託していたケースを考えます。
この場合において、まず①「予算計上」という場面では、対価全額は収入となり、委託料全額が支出となります。入ってくるお金と、出ていくお金を混ぜないということですね。

「参考」
総計予算主義の原則に抵触する例(一般的な例)
総計予算主義の原則に抵触する例(過年度過徴収還付金との関係)
は、それぞれ上記記事をご覧下さい(地方公営企業法は、これとは全く別の「企業会計」を採用しており、こちらは企業と同じような発想の会計が行われています(水道局や交通局が行うような、上下水道・地下鉄・バスを想定してください)。

しかし、②「取引の異常時」においては、民法上の相殺権を行使することが適切な場面が必ず出てきます。この場合に、総計予算主義の考え方が、民法上の相殺権行使の足かせになるわけではありません。

たとえば、前金払を行った業者が、工事の履行途中で仕事を行わなくなった場合、地方公共団体は受注者に対する債権(前金払返還請求権や違約金)を有し、それとともに受注者に対する債務(出来高報酬)を負います。こうしたものは、相殺により処理しなければ、地方公共団体側は出来高報酬だけを支払って、前金払返還請求権と違約金を回収しそびれる等ということにもなりかねません(※ このケースの場合、工事契約書にも相殺による精算方法が書かれていることが通常です)。
民法上、相殺権には、担保的機能がある(両当事者のうち資力のある債権者だけが支払いを余儀なくされる不公平を解消)とされています。地方公共団体としても、公金を預かる立場から、権利としての相殺権を行使すべき「場面」では、それを行使すべきなのは当然なのです。相殺権を行使しなかったことこそが、むしろ、適切な財産管理を怠っているものとして、非難されることがありえます。

3.地方自治体が相殺を行う場合

地方公共団体の会計規則で、相殺の処理が具体的に記載されたものは少ないです。「富山県会計規則」では、歳入徴収者及び支出命令者は、県の債権と債務について、相殺すべきものがあると認めるときは、これを相殺しなければならない、という旨が明記されています(第59条第1項)。