地方自治法上の「督促」を行うか行わないか-裁量の余地はない

1.債権管理として「督促」は本来必ず行うべきもの

地方自治法が構築している債権管理のあり方に照らすと、債権を納期限までに納付しない者がいるときは、必ず「督促」を必ず行うべきものと考えます。
つまり「督促」するかしないかについて、裁量の余地はない、と考えるのが自然ということになります。

2.京都地裁平成22年3月18日判決の概要

京都地裁平成22年3月18日判決(参照)は、以下のように判示して、「督促」につき、行うか行わないかといった裁量の余地はないという旨を示しています。

保育料債権については,督促によって時効中断の効力が発生するのに,本件各保育料債権が時効消滅したことからすれば,D市が,適切な時期にその督促を行っていなかったことは明らかである。
そして,保育料債権を納期限までに納付しない者があるとき,D市長は,期限を指定してこれを督促しなければならず,裁量の余地はないのであるから(地方自治法231条の3第1項),D市が適切な時期に督促を行わずに(したがって滞納処分も行わずに)本件各保育料債権を時効消滅させたことは,このように法が行うことを義務付けている行為を行わなかったという意味において,財務会計行為(怠る事実)の違法性を根拠付ける一つの重要な事情といえる。
そして,督促のみによって保育料を納付する者がいないわけではなく,その分は督促を行わなかったことによる損害ということができる。しかし,督促のみによって保育料を納付する者がいるとしても,その数は僅かであると考えられるところ,本件各保育料債権について,督促を行いその後滞納処分を行っても,滞納処分を行う費用の方が滞納処分による回収額大きく上回ることからすると,結局徴収を怠らなかった方がむしろD市に損失が生じてしまうことになるのであるから(上記ア),仮に保育料怠る事実1・2が違法であったとしても,これを不法行為とするA及び各福祉事務所長らに対するD市の損害賠償請求権が発生するとは認められない。

3.京都地裁平成22年3月18日判決の理解

この判決の後半部分を見てみましょう。裁判所は、①督促を行ったとしてもそれだけで払ってくる人はわずか、②滞納処分を行うにはコストも要するし、それほど回収が見込めるものではないというロジック(かなり行政寄りの判断ですね)で、住民訴訟の判決としては棄却(自治体職員に損害賠償責任を求めない)という判断になっています。
このロジックだとこげついた債権回収を怠っていた事案でも、地方自治体が住民訴訟で負けることはない、と誤解される方もいらっしゃるかもしれません。しかし、この裁判例は、あくまでも救済的な判決だと考えるべきです。基本的には地方公共団体としては適切に債権管理を行うことの一環として、最低限、督促をきちんと行うことが徹底されるべきだと思われます。