議決事項のうち「損害賠償の額を定めること」

1.地方自治体が「損害賠償の額を定める」とはどのようなときか

地方自治法では「損害賠償の額を定めること」に議決が必要であると、下記の通り、定められています(96条1項3号)。

第九十六条  普通地方公共団体の議会は、次に掲げる事件を議決しなければならない。
十三  法律上その義務に属する損害賠償の額を定めること。

地方公共団体が、第三者に対して、損害賠償を行うこととなるケースの例としては、公用車の運転中に相手方を負傷させた事故の賠償等が考えられます。その他には、市民病院・県立病院(独立行政法人の形で営まれているものではないもの)における医療過誤の事案なども典型例の一つだと思われます。こうしたケースで、地方自治体が被害者に賠償を行う際にその額を定める行為が、議決事項になります。
相手方に損害賠償を支払ったり、その合意書面をかわすという行為よりも手前の段階で、議決を経る必要があります。

2.地方自治体が「損害賠償の額を定める」際には、合意書・示談書を作成することが多いことについて

多くの場合、相手方との間で紛争になって、合意点が見いだされた段階で、示談書(裁判外での合意)を交わすことが多いで。この場合の議決は、「和解および損害賠償の額を定めることについて」などといったタイトルの議案を上程し、96条1項12号・13号の議決という形式になります。示談(和解)を内容としない場合が、単体としての96条1項13号の議決になります。

3.裁判手続などを経て敗訴した結果、賠償金を支払う場合について

裁判所における民事訴訟の手続を経て、県あるいは市町村が被告となり、敗訴した結果として、賠償金を払う場合(原告の請求認容判決が出た場合)は議会の議決は不要であると解されております。これは、市が損害賠償の額を「定めた」のではなく、あくまでも司法の判断を受け入れる、容認するに留まるためです。平たくいうと、判決で命じられた金額どおりを払う行為は、特に主体的に何かをするわけではなく、議会によるcheckが不要であるという趣旨と思われます。

4.職員個人の責任について

ところで、少なくとも国賠法が適用される範囲においては、職員の個人責任は否定されており、職員の職務にともなって生じた賠償義務は、地方公共団体がその責任を負うことになります。