訴え提起(や控訴)における179条の専決の利用

1.訴え提起に179条の専決を用いることができるか。

地方自治法第179条第1項は「普通地方公共団体の長において議会の議決すべき事件について特に緊急を要するため議会を招集する時間的余裕がないことが明らかであると認めるときは、首長限りで「その議決すべき事件を処分する」ことが出来るとされています。特に法律上の用語ではないですが、これを4字熟語として「急施専決」と呼ぶこともあるようです。
この専決を”法定代理的専決処分”という言い方をすることもあるようです(宇賀「地方自治法概説」3版p.269)。
この専決を行った場合、その行為の後に、議会へ報告し、その承認を求めなければならない(同条第3項)となっていますが、一般的には「議会の承認を得られなかった場合といえども当該処分の効力には影響がない」とされています。)。
この専決(法179条に基づく専決)は、もちろん「訴えの提起」でも利用が可能です。すなわち、訴えの提起を行いたいけれど、その事件との兼ね合いで急ぐ必要があり、議会を招集して議論することが難しいときということが想定されます。

2.訴え提起に179条の専決を用いるというのは、具体的にどのようなときか。

たとえば、「訴えの提起」を急いで行う必要が生じたとき、専決を行うことが考えられます。
ただし、民事に関する紛争で、急を要する場合は、民事保全法に基づく手続(仮差押や仮処分)をとることが多く、こちらであれば議決は不要です。そのため、専決を使うことになるのは、仮差押や仮処分ではなく、通常の訴訟を“急いで”行う必要があるときに限られます。1か月や2か月を待つ余裕がなく、議会の議決を経ずに、急いで「訴えの提起」をする必要があるという事案は、それほど多くなく、訴訟提起に179条の専決が用いられた例は、それほど類例が多くないと思われます。

3.控訴・上告における179条の専決

次に、すでに係争中(裁判所に係属中)の事件であって、控訴・上告を行うことについても、専決を行うことが考えられます。
控訴の場合、控訴期間は2週間(民訴法第285条)という制約があるためです(上告もまた同じ)。ただし、裁判所は、第一審の審理が終結すると、事前に「判決言渡し期日」を指定します。いきなり不意打ちのように判決が出るものではありません。そのため、首長側としては勝訴・敗訴の可能性をにらんだ準備をしておくべきであり、議会ともコミュニケーションを経ておくべきではないか、と言う考え方もあります。したがって控訴・上告について「特に急を要し」、招集して議決を減ることの「時間的余裕がない」といえるかどうか、ケースごとに慎重な検討が求められます。
なお、地方自治体が原告となる事件では、訴え提起をするときの議案に、控訴や上告をすることは全て任せる(一任する)という文言が入っていることがあります。この場合は、控訴のために179条の専決を経ることは不要です。
※ なお、総務省のpdfの資料を見ていましたら、この専決の制度は、明治の「市政」や「府県制」のときから存在する大変歴史の古い制度のようです。