地方公共団体が刑事告訴や刑事告発を行うときに、議会の議決は不要

1.地方公共団体が「告訴」するとき議決が必要か

地方自治法上、訴えの提起には、議会の議決が必要とされています。これは、もちろん、いわゆる民事訴訟において原告となって裁判を始めること等を指します。刑事手続における、告訴告発を行うには、議会の議決は全く必要がありません。
告訴の定義にさかのぼって考えて見ましょう。刑事告訴とは、告訴とは、犯罪被害者、法定代理人(親権者、後見人)などの告訴権者が捜査機関に対し、犯罪事実を申告し、犯人の処罰を求める意思表示をいいます。いずれの場合も、その行為をしたからといって裁判(訴え)が始まるわけではありません。告訴・告発は、国語的にも「訴える」という行為ではないのです。我が国では、基本的に刑事裁判を始めるという行為は検察官しか行うことができません。

2.地方公共団体が「告訴」するときの典型的な場面

地方公共団体が被害者となる典型例としては、生活保護費の詐取の事案がなどが挙げられます。そうしたとき、市は、詐欺罪について、財産上の被害を受けた立場になり、被害者として刑事告訴を行うことになります。また、国民健康保険の被保険者証などの紙の交付が不正になされた場合にも詐欺罪は成立するとされています。
それ以外では、市営住宅の窓ガラスを故意に、何者かに、破損されたというような場合、刑事告訴を行うことになります。

3.地方公共団体が「告訴」するときの手続

告訴は、「告訴状」を捜査機関(一般的には警察署)に提出する形で、告訴は行うことが出来ます。財産的被害が生じたケースでは、当該財産の管理権限に照らして、市長・知事の名前で「告訴状」をつくることが多いものと思われます。
告訴にあたっては、顧問弁護士と相談したり、警察署の方と事前相談することが多いと思われます。

4.地方公共団体が「告発」するとき議決が必要か

地方公共団体が告発を行う場合も、議決は不要です。たとえば、市の区域内で、法律違反や条例違反が認められる場合ものの、市が、直接の被害者の立場ではない場合において、刑事告発を行うことになります。

ところで、地方自治法100条第9項は、百条委員会における虚偽証言や不出頭に関して「議会」が告発を行うと特殊な規定をおいています。それ以外の一般的なケースでは、市長や知事といった首長名で告訴/告発手続を行うことになるでしょう(地方公営企業の場合、事業に関する代表権があると考える地方公営企業法の趣旨的には、公営企業管理者が告訴/告発を行いうるのではないかと思いますが、警察実務がどのようになされているのかは不明です。)

5.まとめ

このように、告訴を行うか告発を行うかは,地方公共団体の立場が「被害者」なのかどうかで変わってきます。
■参考リンク:地方公営企業における訴えの提起