1.訴えの提起に際して、裁判所には「議決証明書」の提出が必要か
地方自治法では、訴えの提起にあたっては(原則として)議会の議決が必要とされています。ただし、議会の議決を経ていることを、どのような形で裁判所に「証明」するかについて、法律などに明文の規定はありません。
実務上、訴えを提起するとき「議決証明書」の提出を裁判所に求められることが一般的です。これはあくまでも、”明文のない運用”です。訴え提起に際して「議決証明書」を添付して提出しなさいという規定(法律や規則)はありません。訴えの提起をして、裁判所が訴状を受け付けたときに行われる最初の審査(=訴状の審査)に際し、訴えの提起の手続が適法になされていることを確認するために、裁判所が提出を求れくるというのが慣例になっています。
こうした書類は、議長又は議会事務局長の名前で作成し、裁判所に提出することになります。
-地方自治法-
(訴えの提起)
第96条 普通地方公共団体の議会は、次に掲げる事件を議決しなければならない。
12 普通地方公共団体がその当事者である審査請求その他の不服申立て、訴えの提起(略)、和解(略)、あつせん、調停及び仲裁に関すること。
2.訴えの提起に際して、議会の議決が不要な場合、裁判所には「専決」の証明書の提出が必要か
地方自治法の定め等により、そもそも、議会の議決を経なくていい場合があります。「専決」です。
この場合、専決の証明書を出して下さいと、裁判所にて言われると聞いたことがあります。しかし、これは「専決」という概念が誤解されているのではないかと思います。専決とは「議決をとらなくてもモノゴトを進めていい」ということを指す概念です。すなわち「専決」とは、ある行為を指すのではなく、不作為(議決を経なかったこと)を指すのです。「専決」するという言葉は、何か能働的な行為を指すのではないのです。
そうすると「専決」したことを証明するものとなると、結局、議決を経ずに、長(執行機関)が正当な意思決定を経て訴えの提起に至ったこと(たとえば知事決裁や市長決裁を終えたこと)を示す稟議的な資料(そこには議決を経なかったことの理由が明示されることが多いと思いますが)が残っているということになります。そういう書類の裁判所への提出が必要なのかと言われると疑問があります。ただ、裁判所から提出を求められたら、それを出すことになるのかもしれません。
3.訴えの提起に際して、議会の議決が不要な場合、訴状などに何かその旨を記載しておくべきか
訴状の審査をする裁判所書記官にあっては、原則として、地方公共団体が提起する事件(原告事件)は議決が必要という発想があります。そのため、なぜ議決が不要と考えたのかについては、訴状に書くか、訴状以外の書類(上申書)に書くかは別として、裁判所にも分かるようにしておくのが適切と思われます。
■参考記事:訴えの提起の議案(参考例をベースに解説)